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場の、今を見、古に学び、先を考えます、申します

忘れてなくてもくる災害―複合した場合001―

 今回のコロナウイルス感染拡大で、感染症に無防備で発展してきた現代日本の脆弱さが露わになってしまいました。幕末から近代にかけてのコレラ病や腸チフスなどの水系伝染病の流行、近代のスペイン風邪など、大量の死者を発生させる伝染病が、幾度も世界を襲ってきたのですが、人はそれを乗り越えてきたといえます。しかし、ひどい記憶を忘れてきたともいえるのではないかと思います。

 

 日本において忘れたいようなひどい記憶といえば、災害です。災害には地震災害、火山災害、気象災害などがあり、日本はいずれも激しい国ですね。などと書きましたが、隕石が落ちても災害ですが、これはなんというのでしょうね。調べないとわかりません。

 

 地震災害といえば、先日このブログを書くために、映画『風立ちぬ』の絵コンテ集を見直したのですが(持っている、笑)、宮崎駿が、主人公二人の出会いの場として用意したのが、関東大震災で汽車乗車中という設定でした。地震波が大地の波となってこちらに向かってくるかのような描写は、強く心に残りました。

 

 気象災害といえば、毎年のように、どこかの講義で触れるのが、谷崎潤一郎細雪』に描かれた阪神大水害です。文庫版ですと中巻の前半で、静かなプロローグから始まります。主人公といえる貞吉の近所に住むドイツ人の娘の舞踏会に関する話の後、説が変わると、雨に例えるならば、パラパラとした小雨のような話から、次第に本降り、豪雨、驟雨(強弱のある雨)のように、阪神大水害の激烈な災害描写が展開されていきます。とくに印象的だったのは、浸水した裁縫学校でカーテンにつかまった四女に、水が迫ってくるシーンです。大阪船場の古い知り合いのカメラマンが助けに来るまでのギリギリのシーンは、スピルバーグの映画のように、恐怖感を高めさせます。

 

 『細雪』は3度映画化されています。映画は、1作目と3作目を見たことがありますが、水害は3作のうち1作目にしか描かれていないそうです。1950年頃の作品であるこの1作目の水害シーンがなかなかいいです。プロローグから静かに始まる作品作りは、原作を彷彿とさせるものです。数年前に、NHKでバブル期の設定で現代ドラマ化されました。台風だったか、水害シーンが描かれていて、感心しました。名作ですので、舞台も多数あることでしょうね。阪急コマ劇場がまだあったころ、新聞で『細雪の舞台が告知されているのを目にした記憶があります。有名な女優さん主演ですね。

 普通の芝居では、水害シーンを舞台として設けるのは厳しいことでしょう。私が脚本家なら、一人芝居とか、少人数で人間だけで、舞台装置なしで想像のみで演じる芝居、なんというか知りませんが、それで想像を膨らませるようにすることでしょう。

 

 一昨年だったか、阪神・淡路大震災とその後の鉄道の復旧工事を描いた、関西テレビ60周年記念作『BRIDGE』も、なかなか印象的でした。六甲道駅は、今では何もなかったかのように整った建物と街並みですが、ひどいものだったと聞きますし、映像でも目にしました。このドラマでもよく描かれていたと思います。

https://www.ktv.jp/info/newpress/2018/20181107/

 

 1995年の阪神・淡路大震災は1月17日でした。2011年の東日本大震災は3月11日でした。2016年の熊本地震は4月14日と16日だったそうです。もしこれらの地震災害が、6月や7月の前半、あるいは9月や10月に発生していたら、ひどかったこれらの災害が、よりひどい状況になっていたのではないかと、思わずにはいられません。梅雨期の集中豪雨や秋の台風が、容赦なく日本を襲い、とくに2000年代以降、激甚化しているからです。

 阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震によって、大阪平野の淀川河口部の堤防が破損したという事実はあまり知られていないようです。もし、地震が梅雨時やの台風接近・上陸の真っ最中だとすると・・・。想像したくない状況となることでしょう。淀川河口部の堤防破損については、報道で取り上げられたことがあったはずで、周知されたといえばそうなりますが、そう、人は忘れてしまうのです。

 

 急遽、この話を別立てて始めて見たいと思います。

 

 なお、地域研究ともいえる地理学は、場所の自然環境や、人々の暮らしや社会、文化について、経緯を踏まえて理解しようとする分野といえます。場所の全ての事象の現在のみならず、過去、そして未来についても考え、提言していくことが、本来的に望まれます。ある特定のことに非常に深く詳しくなるのはなかなか難しいです。でも、広く知り、知ったことをつなげて考えればいいのです。場所に関してそういう視点を持つのが地理学、地域研究の分野です※1

 そういう発想の研究分野が、近年増えてきてはいますが、平たく伝える地理という教育の科目の姿を思い出せば、誰もが知っておきたい基礎知識として伝える(報告する)意義があることがわかりますよね。この分野の真価が発揮されるはずです。

 

※1 念のため注書きしますと、「ぶっちゃけいえば」ですね。